近年、急速な成長を遂げているVTuber業界において、タレントと所属事務所間のIP(知的財産)の取り扱いが大きな注目を集めています。特に、元VTuberタレントであるksonさんが自身のIP問題と業界の実情について言及したポストは、多くの議論を呼びました。このポストは、VTuber業界が直面する重要な課題、すなわち「誰がIPを所有すべきか」という問いを浮き彫りにしています。
ksonさんのIP自己所有がもたらした強み
ksonさんの事例では、彼女自身がIPを所有していたことの重要性が強調されています。彼女は「VshojoはIPがタレントにあるので、元Vshojoタレント自体の活動は何ら変わらないので安心して下さい」と述べており、事務所を脱退した後も、自身の活動を継続できることの安堵感を表明しています。これは、IPがタレント自身に帰属していたがゆえに可能となったことです。
もしIPを会社が保有していた場合、状況は大きく異なっていたでしょう。ksonさんは、もし会社がIPを保有していれば、未払い分の変換のために収益配分が一方的に減らされたり、タレントはIPを失いたくないために文句も言えず、問題が表に出ることもなく、あたかも何事もなかったかのように活動が続けられていた可能性があると指摘しています。そして、「そんなところたくさんあると思います」と述べており、同様の問題を抱える事務所が少なくないことを示唆しています。
ksonさんは、自身を含むタレントが「悪いことにNoと表だって言えるのはIPを持っているからだ」と強く主張しており、自己所持のIPがいかに強力な武器であるかを訴えかけています。この「自己所持」は、タレントが理不尽な状況に直面した際に、声を上げ、正当な権利を主張するための基盤となります。これは、タレントが自身のキャリアをコントロールし、不当な扱いに抵抗するための重要な手段であり、その影響は単なる経済的な側面に留まりません。IPの自己所有は、タレントの表現の自由を守り、長期的な活動の継続を可能にする上で不可欠な要素と言えるでしょう。
VTuber業界に潜む課題と複雑な力学
しかし、VTuber業界は依然として多くの問題を抱えています。
- 未払いの問題: ksonさんは「未払いはやべぇし」と述べており、事務所からの報酬の未払いが深刻な問題であることを示唆しています。これは、タレントが自身の労働に見合った対価を得られないという、基本的な権利の侵害であり、業界全体の信頼性を損なう要因となります。未払いは、タレントの生活基盤を脅かすだけでなく、モチベーションの低下や精神的な負担にも繋がります。
- タレントの我慢: ksonさんのように「おかしいと思ったこと我慢しないで言っちゃうタイプ」のタレントは稀有であり、多くのタレントは理不尽なことが起きても何も言わず、笑顔を見せながら活動を続けていると指摘されています。これは、事務所との力関係や、活動を失うことへの恐れから生じるものでしょう。特に、まだキャリアが浅いタレントや、人気が安定していないタレントは、声を上げることによるリスクを強く感じやすい傾向にあります。この現状に対し、ファンには「とにかく自分の推しを応援してあげて」というメッセージが送られています。これは、ファンがタレントの活動を支えることで、間接的にタレントの権利保護に貢献できるという、業界独自の支援の形を示しています。
- 業界の未熟性: VTuber業界は「残念ながら大きなお金が動き始めたからみんなが思ってるよりまだ業界歴が浅いから問題が残感素晴らしかったんやな」という見方もされています。これは、多額の資金が動くようになったにも関わらず、業界としての歴史が浅く、法整備や規範が追いついていないために、多くの問題が未解決のままになっていることを示唆しています。急速な成長は、新たなビジネスモデルや収益機会を生み出す一方で、予期せぬトラブルや倫理的な問題を引き起こす可能性も秘めています。特に、既存の芸能界とは異なる独特のビジネス形態であるため、既存の法律や慣習が必ずしも適用できないケースも存在し、それが問題の複雑さを増しています。
- 金銭と不透明さ: 「ここまでお金が動く業界だとまあ汚いこともたくさんあるだろうな」というコメントや、「大きなお金が動いてて綺麗な業界って存在しないよな」という問いかけは、VTuber業界も例外なく、金銭が絡むことで発生する不透明な取引や不誠実な対応が存在することを示唆しています。健全な企業が存在するのかという疑問も投げかけられています。収益配分の不透明さ、契約内容の曖昧さ、そしてそれを盾にした事務所側の一方的な要求などは、タレントが不利益を被る典型的な例です。これは、業界全体の信頼性に関わる問題であり、新規参入者や投資家にとってもリスク要因となり得ます。
事務所とタレントのパワーバランス
IPの所有は、タレントと事務所間のパワーバランスに直接影響を及ぼします。タレントがIPを持つことで、「運営に頼らずやっていけるのでパワーバランスがタレント有利になりすぎるのかな」という懸念も示されています。これにより、「運営は事業がうまくいかずにこうなったのかな」という見方も出ており、タレントが強くなることで、かえって事務所の運営が困難になる可能性も指摘されています。これは、事務所側からすれば、タレントがIPを持つことで、タレントの引き抜きや独立が容易になり、事務所としての事業継続が難しくなるというリスクを意味します。しかし、タレント側から見れば、自身の努力と才能によって生み出されたIPを事務所に一方的に搾取されることを防ぐための正当な防衛策とも言えます。
また、「会社選びマジ大事」という重要な教訓も得られます。IPを保持していても、会社の不誠実な対応に巻き込まれ、チャンネルが復活しないタレントも存在すると言及されています。大手企業は比較的健全であると考えられがちですが、中小企業では特に注意が必要だという見方があります。もちろん、不誠実な対応をする事務所が悪いことは明白ですが、このビジネスモデルでは、「企業に属するメリットがなくなって皆離れたんだろうな」という見方もされており、結局は「タレントの実力ありきの企業運営だとタレント側にメリットないよね」という議論に帰結します。これは、事務所がタレントに対して提供する価値が、単なるマネジメントやプロモーションに留まらず、IPの権利保護、安定した報酬の支払い、そしてキャリア形成の支援といった多岐にわたるものでなければ、タレントが事務所に所属する意義を見出せなくなるという、現代的な課題を示しています。
健全な業界への模索
このような状況の中で、コメント欄では「にじとホロは比較的に健全やろ」といった声も上がっており、大手VTuber事務所の中には比較的健全な運営を心がけているところもあると認識されています。これは、業界全体が抱える問題に対する希望の光であり、健全なビジネスモデルを構築できる可能性を示唆しています。健全な事務所は、透明性の高い契約、公正な収益分配、そしてタレントのIP尊重を実践することで、タレントからの信頼を獲得し、長期的な関係を築いています。
しかし、業界全体としては、IPの扱いや事務所の役割について、まだ多くの議論と改善が必要な段階にあると言えるでしょう。具体的には、業界団体によるガイドラインの策定、タレントと事務所間の公正な契約書のひな形作成、紛争解決のための第三者機関の設立などが考えられます。また、タレント自身も、契約内容の理解を深め、自身の権利について学ぶことが重要です。
最終的に、ksonさんの件を通して、多くの人が「IPと事務所って思ったより大事なんだと気づけた」と認識を新たにしました。VTuber業界の健全な発展のためには、タレントの権利保護、特にIPの明確な帰属と公正な契約が不可欠であり、ファンもまた、自身の「推し」が健全な環境で活動できることを願うばかりです。これは、単なる個別のトラブルとして片付けられる問題ではなく、VTuberという新たなエンターテイメント形式が社会に定着し、さらに発展していくために乗り越えなければならない重要な課題であると言えるでしょう。業界全体でこの問題に真摯に向き合い、タレントと事務所が共に成長できるような持続可能なエコシステムを構築することが求められています。
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